棟換気とは?基準を満たしても屋根裏の空気が流れない理由
「棟換気、ちゃんと付いていますよ」。この一言で安心した方は、少し待ってください。棟換気は、付いていても流れていないことがあります。しかも、必要な面積を決めているあの数字には、もともと実験の裏づけがほとんどありません。
こんにちは、かおり木工房の宗野です。
屋根裏は、家の中でいちばん点検されない場所です。床下は点検口から覗けますし、壁の中はそもそも覗けません。屋根裏は、覗けるのに誰も覗かない。しかも夏はいちばん高温になり、冬はいちばん冷え、一年を通していちばん湿気が集まります。熱と湿気が集まる場所を、誰も見ていない。このページは、そこから始まります。
静岡市・焼津市・藤枝市で家づくりを検討中の方に向けて、屋根裏の空気は本当に流れているのかを、法律の条文と、海外の実験データと、簡単な計算で確かめていきます。図面の見方も最後にまとめます。
棟換気とは。屋根裏の空気の「出口」
棟換気(むねかんき)とは、屋根のいちばん高いところ(棟)に設ける換気部材のことです。カタログや図面には、軒先から青い矢印が入って棟から赤い矢印が出ていく断面図が載っています。軒天(軒の裏側)から入った空気が屋根裏を通り、棟から抜ける。この出口にあたるのが棟換気です。
図1 小屋裏換気の基本。軒天から給気し、棟換気から排気する
ただし、あの断面図の矢印は空気の「希望」であって、空気の「実測」ではありません。出口が付いていることと、空気が実際に流れていることは、別の話です。
棟換気の必要面積は、建築基準法には書かれていない
ここで一つ質問です。棟換気の必要面積は、建築基準法の第何条に書いてあると思いますか。答えは、どこにも書いてありません。戸建て住宅の小屋裏換気について、建築基準法に数値の規定はないのです。法律で数値が決まっているのは、むしろ床下のほうで、建築基準法施行令の第22条に床下換気口の寸法まで書いてあります。足元の換気は法律で決まっていて、頭の上の換気は決まっていない。少し不思議な話です。
では、現場で使われている「900分の1」「1600分の1」という数字はどこから来ているのか。住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書、いわゆるフラット35の仕様書です。もう一つが、住宅性能表示制度の劣化対策等級の評価基準。つまり、融資の条件と性能評価のものさしであって、義務ではありません。ですから、価格を優先した家では、棟換気そのものが付いていないケースが今も普通にあります。
仕様書の四つの方式
| 換気の方式 | 必要な換気口の面積(天井面積に対して) |
|---|---|
| 両方の妻壁だけ | 1/300以上 |
| 軒裏だけ(給気と排気を兼ねる) | 1/250以上 |
| 軒裏から給気、妻壁から排気 | それぞれ1/900以上 |
| 軒裏から給気、棟から排気 | 給気1/900以上、排気1/1600以上 |
天井面積100平方メートルの家で計算してみます。給気が1111平方センチ、排気が625平方センチ。625平方センチというのは、名刺でいうとだいたい13枚分です。屋根一棟分の排気口が、名刺13枚。「思ったより小さい」と感じた方は、感覚として正しいです。その違和感を覚えておいてください。
図2 天井面積100平方メートルの家に必要な換気口を名刺の枚数で表したもの
その比率に、実験の裏づけはなかった
もう一つ気づいてほしいのが、給気1/900に対して排気が1/1600だということです。入口のほうが出口より大きい。ふつう逆だと思いますよね。これは後半で説明します。
先に、この比率の出どころです。原型はアメリカにあります。1942年、連邦住宅局が「屋根裏の換気は床面積の300分の1」という比率を出しました。この基準には、根拠となる研究の記載がありませんでした。のちに建築研究者のウィリアム・ローズ氏が文献をさかのぼって調べたところ、行き着いたのは1938年の実験にある、たった一つのデータ点だったと報告しています。1999年にASHRAEで発表された論文でも、屋根裏換気の要求は限られた技術情報をもとに決まった、とはっきり書かれています。
80年前の、たった1点のデータが、いま世界中の屋根の上に乗っている。もちろん、だから無意味だという話ではありません。ただ「基準を満たしたから安心」とは言えない、ということです。
棟換気の本業は「冷やすこと」ではなく「湿気を出すこと」
では、実験データはどう言っているのか。アメリカのオークリッジ国立研究所が、屋根裏の熱と湿気の性能を解析しています。換気量を1/300から1/150へ、つまり倍に増やしたとき、夏の冷房負荷の削減はおよそ10パーセント。一方で、結露が起きる可能性の低下は、およそ33パーセントでした。
倍にしても、夏の熱は1割しか減らない。理由は単純で、屋根裏を熱くしているのは空気ではなく、屋根面からの輻射熱だからです。静岡の夏、入ってくるのは35度の外気です。35度の風で70度の屋根裏を冷やすのは無理があります。夏の小屋裏対策は、換気ではなく断熱の厚みと屋根材、そして日射のコントロールが担います。
棟換気は冷房装置ではありません。湿気の排水口です。
では、その湿気は出し切れているのか
入ってくる量と、出ていく量を並べてみます。あくまで概算です。
まず出ていく側。排気口が625平方センチ。そこを通る風速を、仮に毎秒0.1メートルとします。これで1時間あたりおよそ22立方メートル。小屋裏と外気の絶対湿度の差を2グラムとすると、1日に運び出せる水蒸気はおよそ1.3キロです。
次に入ってくる側。冬、室温20度、外気5度。暖かい空気は上へ行きます。煙突効果です。天井には、意外と穴があります。ダウンライトの開口、点検口のまわり、間仕切り壁の上端、配線の貫通部。これを全部足して100平方センチ、名刺2枚分の隙間があったとします。このとき天井を抜けて上がる空気は、1時間あたり40立方メートル前後。室内と外気の絶対湿度の差を5グラムとすると、1日でおよそ6キロです。
図3 出せるのが約1.3キロ、入ってくるのが約6キロ。4倍以上の赤字です
しかも、風が止まれば出ていく側はゼロに近づきます。入ってくる側は、内と外に温度差があるかぎり、24時間止まりません。屋根裏の空気は流れていると思われていますが、流れているかどうかは、その日の風まかせなのです。出口を増やすより、入口を塞ぐほうが速い。ここに答えがあります。
なぜ給気が1/900で、排気が1/1600なのか
先ほどの宿題です。なぜ入口のほうが大きいのか。排気を大きくしすぎると、小屋裏が負圧になります。負圧になった小屋裏は、どこから空気を引っ張ってくるか。天井の隙間からです。つまり棟換気を増やしすぎると、室内の湿った空気を屋根裏に吸い上げる装置になってしまいます。
図4 給気が塞がれたまま棟換気だけを増やすと、屋根裏が負圧になり室内の湿気を吸い上げる
入口を大きく取って、小屋裏をわずかに正圧気味に保つ。あの比率には、ちゃんと意味があります。「棟換気は多いほどいい」は、条件付きでしか正しくありません。ここを知らずに棟換気だけ増やしている家、実はけっこうあります。
面積を満たしていても、空気が止まる七つの理由
図面の面積は満たしている。それでも流れない。その理由は、全部現場にあります。
- 断熱材が軒先を塞いでいる。吹き込み断熱や充填断熱が入口を潰します。通気スペーサーで30ミリ以上の道を確保する必要があります。
- 軒がない。軒ゼロの家は、そもそも給気口を取る場所がありません。棟だけ付けても、入ってきません。
- 軒天の有孔ボードの開口率。開口率4.4パーセントといった製品もあります。見た目の面積と有効な面積は別物です。
- 小屋裏が区画されている。界壁、下屋、登り梁で分かれた空間には、それぞれに給気と排気が要ります。下屋の小屋裏は、たいてい忘れられています。
- 防虫網の目詰まり。10年で埃と虫が詰まります。竣工時の性能はそのままは続きません。
- 太陽光パネルや雪で棟がふさがれる。
- 単純に、棟換気材の長さが足りない。1本あたり240平方センチの製品なら、625平方センチには3本必要です。棟に1個だけ、という家をよく見ます。
軒天の穴も、電卓を叩いてみる
屋根の換気の話をすると、みなさん棟を見ます。でも、屋根裏の空気が止まる原因の多くは、棟ではなく軒天にあります。ストローの片方を指でふさいで吸ってみてください。吸えませんよね。屋根裏もまったく同じで、出口だけあっても空気は動きません。
軒天に使われる専用の換気材は、カタログに有効換気面積が明記されています。たとえば鋼板製の軒先タイプで1メートルあたり150.5平方センチ、樹脂製のタイプで102平方センチといった製品があります。必要な給気1111平方センチを確保するには、150.5で割って7.4メートル、102で割って10.9メートル。同じ給気量でも、製品によって必要な長さが1.5倍違います。この「何本」という数字が図面にないまま着工している現場が、けっこうあります。
ちなみに、軒裏だけで給気と排気を兼ねる方式(1/250)だと、天井100平方メートルで4000平方センチ。150.5の製品で26.6メートルになります。総二階の建物で軒の総延長は36メートル前後ですから、軒のおよそ4分の3に換気材を入れ続ける計算です。棟換気を使うのは、この作業量を現実的な水準まで下げるためでもあります。
屋根の形で、空気の流れを単純化する
棟換気を付けたのだから、図面の矢印どおりに空気が動いてくれるはず。そう考えたくなりますが、空気はそこまで素直ではありません。数値どおりの面積を確保して、計算書の上で辻褄が合っていても、実際の屋根裏でその通りに流れる保証はどこにもないのです。私たちは、計算で複雑な形をねじ伏せるより先に、空気が迷わない形を選ぶことから考えます。
図5 屋根の形で、空気の通り道の単純さがまるで違う
寄棟は、道が複雑で出口が小さい
寄棟は四方向に屋根面が下りる形で、外観は落ち着いて見えますが、通気の面では条件が厳しくなります。棟が短いので排気の面積が取りにくく、四方の軒先から入った空気は、隅棟(屋根の角に向かって下りる斜めの棟)で分断されながら、短い棟に集まってこなければなりません。屋根面ごとに道の長さも向きも違うので、流れの弱いところ、よどむところが生まれやすいのです。
切妻は、どの通気層も一本道
切妻は、棟が建物の端から端まで一直線に通ります。どの垂木の間の通気層も、軒先から棟までまっすぐ一本道でつながり、入口と出口が全ての道で対になります。空気に迷う余地がありません。棟が長い分、排気の面積も素直に確保できます。
片流れは、流れが一方向で最も単純
片流れは屋根面が一枚だけで、空気は低い側から高い側へ一方向に流れます。形としては最も単純です。ただし棟換気材がそのまま載る頂点がないため、高い側の壁際に専用の換気部材が必要で、雨仕舞との両立を設計段階で確認しておくことが欠かせません。
デザインの好みで寄棟や複雑な形を選ぶこと自体を否定するつもりはありません。ただその場合は、屋根断熱ではなく天井断熱にする、区画された小屋裏ごとに給気と排気を確保するなど、流れが成立する設計を計算と図面で裏づける必要があります。形を単純にすれば、その苦労の大半が最初から要らなくなる。私たちが切妻や片流れを基本に考えるのは、この理由からです。
屋根断熱と天井断熱では、「釘の結露」も違う
屋根の断熱には、断熱材を屋根面に沿って入れる屋根断熱と、天井の上に敷く天井断熱があります。違いは断熱材の置き場所だけだと思われがちですが、もう一つ大きな違いがあります。野地板(屋根の下地の板)を留めている、釘の結露です。
天井断熱の小屋裏では、冷えた釘の先端が屋根一面に並ぶ
天井断熱の家では、断熱の境界線は天井です。その上の小屋裏は外気とほぼ同じ温度の空間で、冬の夜は放射冷却でキンキンに冷えます。野地板も、屋根材を留めるために野地板を貫いている無数の釘も、外気温近くまで冷えます。釘は金属なので、周りの木材よりも速く、深く冷えます。
そこへ、天井の隙間から室内の湿った空気が上がってくるとどうなるか。空気は、いちばん冷たいものに触れたところで水に戻ります。小屋裏でいちばん冷たいのは、釘の先端です。釘の先にまず水滴が付き、冷え込みが強い夜には霜になります。釘先の結露と呼ばれる現象で、水滴は釘を伝って野地板や断熱材に落ち、天井のシミやカビの原因になります。天井断熱の家で天井の気密と小屋裏の換気がこれほど大事なのは、湿気を待ち構える冷えた金属の先端が、屋根一面に並んでいるからです。
屋根断熱では、小屋裏ごと温かい側に入る
屋根断熱の家では、断熱の境界線が屋根面まで上がるため、小屋裏そのものが室内側の温かい空間に入ります。野地板の内側の面も、釘の先端も室温に近く保たれ、そこに触れる空気との温度差が小さいので、小屋裏側での釘先の結露は起きにくくなります。勾配天井や小屋裏の空間利用ができることに加えて、ここは屋根断熱のはっきりした利点です。当社が小屋裏を空調の経路として使えるのも、小屋裏が断熱の内側にあるからです。
ただし、屋根断熱には屋根断熱の条件があります。断熱材の外側の通気層が施工不良で潰れると、今度は湿気の逃げ場がなくなり、軒先や屋根の中で結露します。屋根断熱は通気層の施工精度が命、天井断熱は天井の気密と小屋裏の換気が命。どちらが上という話ではなく、どこが冷えて、湿気がどの冷えた面で水に戻るのかを設計で押さえているか。ここが分かれ目です。
やるべき順番は「気密が先、換気は後」
ここまでの話を整理すると、やることの順番が決まります。
STEP 1
天井の気密を取る
防湿気密シートを切らずに連続させ、点検口は気密型を使い、天井に穴を開けるダウンライトは避ける。入ってくる湿気の元を断ちます。
STEP 2
給気と排気を面積で計算する
天井面積から必要面積を出し、軒天換気材と棟換気材の製品名、有効換気面積、本数まで図面に書く。「軒天換気材」という記載だけでは情報がゼロです。
STEP 3
通気の道を現場で見る
上棟のあと、小屋裏の点検口から軒先のほうを見る。軒先から光が差し込んでいれば空気も入ります。断熱材で塞がれて真っ暗なら、入っていません。
この順番を逆にすると、換気部材を増やすほど屋根が湿るという、笑えない話になります。専門知識はいりません。懐中電灯と、自分の目だけで確かめられます。
差が出るのは、30年後の葺き替えのとき
木材は、含水率がおよそ20パーセントを超えると腐朽菌が動き始めます。結露が年に何十日も起きる屋根裏では、野地板は10年、20年とかけて黒くなっていきます。やっかいなのは、誰も気づかないことです。気づくのは30年後の葺き替えのとき。足場を組んで屋根材をめくって、そこで初めて「下地が全部やられています」と言われる。屋根の寿命は、葺き替えの日にまとめて請求されるのです。
逆に、天井の気密が取れていて、給気と排気が計算どおりに通っていれば、屋根は乾いたまま歳を取ります。
かおり木工房の考え方
かおり木工房では、気密性能を一棟ごとに実測で確認したうえで、小屋裏を空調の経路として設計に組み込んでいます。屋根裏は放置する空間ではなく、設計する空間だと考えています。軒天換気材と棟換気材は、品番と有効換気面積、本数を図面に明記します。見学会では小屋裏の点検口を開けて、軒先の通気スペーサーと通気の道がどうなっているかを、そのままお見せしています。
図面の矢印ではなく、実物を見てから決めてください。構造の「たわみ」へのこだわりと合わせて、許容応力度計算のページもご覧いただくと、私たちが「基準を満たす」ことをゴールにしていない理由が伝わると思います。
よくあるご質問
棟換気は多ければ多いほど安心ですか。
条件付きです。給気が確保されていないまま排気だけ増やすと、小屋裏が負圧になり、天井の隙間から室内の湿った空気を吸い上げます。仕様書が給気を排気より大きく定めているのはそのためです。まず天井の気密、次に給気と排気のバランス、という順番が大切です。
屋根断熱(勾配天井や小屋裏収納)の家では、棟換気はどうなりますか。
屋根断熱の場合は、断熱材の外側に通気層を設け、軒先から棟へ空気が抜ける道を確保します。寄棟のように棟が短く通気経路が取りにくい屋根では、天井断熱(桁上断熱)を選んだほうが、通気を確実に機能させやすいと考えています。
今住んでいる家の屋根裏が心配です。何を見ればいいですか。
まず小屋裏の点検口から、軒先のほうに光が入っているかを見てください。次に、野地板(屋根の下地の板)に黒ずみやシミがないか。そして棟換気材が実際に付いているか、何本あるか。この三つで、おおよその状態が分かります。気になる点があれば、静岡市・焼津市・藤枝市の方はご相談ください。
まとめ
棟換気に、建築基準法の数値規定はありません。1/900と1/1600は、フラット35の仕様書と性能表示の基準です。その原型である1/300は、1942年に実験の裏づけなく決まった数字でした。換気量を倍にしても夏の熱は1割しか減らず、減るのは結露のリスクで、そちらは3割。棟換気は冷房ではなく、湿気の排水口です。そして、出せる湿気より入ってくる湿気のほうが多い。だから気密が先。
「空気は流れている」ではなく、「流せる条件が整っているか」。これが、屋根裏を見るときの正しい質問です。静岡市・焼津市・藤枝市で、長く乾いたまま歳を取る家をお考えの方は、図面と現場の両方で、屋根裏の話をさせてください。
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出典
住宅金融支援機構「木造住宅工事仕様書」小屋裏換気の基準(妻壁1/300、軒裏1/250、軒裏と妻壁 各1/900、軒裏1/900と棟1/1600)
国土交通省 国土技術政策総合研究所「木造住宅外皮の換気・通気計画ガイドライン(案)」第13章
TenWolde, A. and Rose, W.B.「Issues Related to Venting of Attics and Cathedral Ceilings」ASHRAE, 1999
Rose, W.B.「Early History of Attic Ventilation」
Oak Ridge National Laboratory「Energy and Moisture Performance of Attic Assemblies」
建築基準法施行令 第22条(床下換気口)。戸建て住宅の小屋裏換気に関する数値規定は建築基準法にはありません
図3の水蒸気収支は、風速0.1m/s、絶対湿度差2g/kgと5g/kg、隙間100平方センチ、温度差15度を仮定した概算であり、実測値ではありません